AIと著作権①

 AIが語られないことはないくらい、日々、AIが浸透していっています。そして、著作権という観点からもAIは非常に大きな問題を孕んでおります。「人の権利を踏みにじるようなものをAIで生成してよいのか」「AIが生成したものは著作権侵害にならないのか」等、様々な議論が交わされております。そして、本年5月30日、文化庁は「AIと著作権の関係等について」という内容を公表しております。

AIと著作権の関係等について

 AIと著作権を考える上では、3つのフェーズで考える必要があります。まず、第1に、AI開発・学習段階です。ビッグデータの利活用を推進するために、平成30年の改正著作権法によって、AI開発のような情報解析等において、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用行為は、原則として著作権者の許諾なく利用することが可能となりました(著作権法30条の4)。ですので、AI開発・学習段階においては、著作権侵害は原則としては考える必要はないことになります。ただし「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」等は原則通り許諾が必要です。次に、第2に、生成・利用段階です。AIを利用して生成した場合でも、その利用が著作権侵害となるかは従前の考え方と同じです。すなわち、類似性、依拠性、制限規定の該当の有無に基づいて、著作権侵害の有無が判断されることになります。そして、特に、既存の著作物と類似性がある生成物を利用する際には、注意が必要となります。すなわち、類似性が認められる場合に、AI生成物の「依拠性」をどのように考えるかについては、定まった考え方や裁判例があるわけではありませんが、AI生成物が、学習に用いられた元の著作物の表現と類似していれば、依拠性ありと推定してよいのではないかという柔軟な依拠性認定が主流になっていくのではないかと予測されるからです。そして、第3に、AI生成物が著作物となるかの段階です。まず、AIが自律的に生成したものは、 「思想又は感情を創作的に表現したもの」ではなく、著作物に該当しないと考えられます。しかしながら、人が思想感情を創作的に表現するための道具としてAIを使用したものと認められれば、著作物に該当し、AI利用者が著作者となると考えられます。そして、人がAIを道具として使用したといえるか否かは、人の創作意図があるか、及び、人が創作的寄与と認められる行為を行ったか、によって判断されます。この創作意図と創作的寄与こそがミソでありますが、現段階では明確な考え方や裁判例があるものでありません。ただ、AI技術の進歩が激しい今日においては、創作意図や創作的寄与については、AIを何らかの形で利用するという段階があれば、その推認が働くということになるのではないかと思われます。

 上記内容は現段階でのAIと著作権の視点になります。そして、AI技術が進展しておりますので、その都度のアップデートは必要になると思われます。ただ、著作物性、類似性、依拠性、制限規定の該当の有無で著作権侵害の有無を考えるという骨格は変わらないかと存じますので、その応用をしていく必要がありそうです。

2023年7月31日

執筆者:弁護士 室谷 光一郎