誹謗中傷等にかかるプラットフォーム事業者に求められるもの

 総務省は、プラットフォームサービスに関する研究会の下に設置された「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」(以下「本WG」といいます)がまとめた「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ 今後の検討の方向性」(以下「本報告書」といいます)を公表しました。
 誹謗中傷をはじめとするインターネット上の違法・有害情報の流通は社会問題化しており、昨今、刑法改正による侮辱罪の法定刑の引き上げ(令和4年7月施行)、プロバイダ責任制限法の改正による発信者情報開示請求に係る裁判手続の迅速化(令和4年10月施行)等の対策が取られております。インターネット上の違法・有害情報による被害は多く、被害者による同情報の削除請求を公正・円滑に進めていく必要があります。そして、その方法としては、①プラットフォーム事業者等を相手方とする裁判手続(典型的には仮処分)による削除と、②プラットフォーム事業者が定める利用規約等に基づく裁判外での削除の2つの手段が存在しております。しかしながら、①裁判手続による削除は、被害者にとって金銭的、時間的に利用のハードルが高く、利用数が少ない状況となっています。一方、②事業者の利用規約等に基づく裁判外での削除は、金銭的、時間的なコストも低く、一般的に利用されています。そこで、「プラットフォーム事業者の利用規約に基づく自主的な削除が迅速かつ適切に行われるようにすることが必要である」との考えに基づき、本報告書が作成されました。本報告書は、個別の情報の流通及びその違法性を知ったときやその違法性を知るに足る相当の理由があるときは、表現の自由を過度に制限することがないよう十分に配慮した上で、プラットフォーム事業者に迅速かつ適切に削除を行うなどの責務を課すべきであるという前提に立ったうえで、違法情報の削除等に関する枠組みを策定することを求めています。具体的には、プラットフォーム事業者に対する規律として、①削除指針の策定及び公表、②運用体制の整備、③申請手続等の整備、④運用状況の公表、⑤運用結果に対する評価などを検討する必要があるとされています。また、規律のあり方のみならず、違憲・有害情報の流通の低減のためにプラットフォーム事業者が果たすべき積極的な役割(監視、削除請求権、削除要請等)の制度設計についても検討の方針が示されています。

 誹謗中傷をはじめとするインターネット上の違法・有害情報の流通は社会問題化しており、表現の自由に対する制約になることは避けつつも、インターネットというメディア空間における自由な言説を担保していくためにも、プラットフォーム事業者による公正な制度設計をしていくことが求められる局面になってきたと言えます。
2023年10月23日

執筆者:弁護士 室谷 光一郎