裁判例から考察する写真の著作物性

 2023年2月8日、自身が撮影した鉄道写真を無断でポスターに使用されたとして、撮影者の男性が東武鉄道とその子会社に賠償を求めていた訴訟について、さいたま地方裁判所は、当該写真は著作物に該当し、かかる行為は著作権侵害であるとの判決を言い渡しました。なお、東武鉄道は第三者の写真等を使用する場合のマニュアル等を作成していたことから子会社の従業員に対する監督義務まであるとは認容できないとして、子会社の責任のみを認める判断となりました。

 さて、本訴訟については、もはや最初からダメでしょとしか言えない内容です。著作物性に関する判断基準は様々存在し、短い言語、音楽、応用美術、プログラム、映像等については、様々な裁判例がありますが、実務上、なかなか悩ましい難しい場面があります。ただ、写真の著作物性に関しては、かなり的確な判断ができるのではないかと思います。つまり、東京高裁平成13年6月21日判決(みずみずしいスイカ写真事件)で、「写真著作物における創作性は、最終的に当該写真として示されているものが何を有するかによって判断されるべきものであり、これを決めるのは、被写体とこれを撮影するに当たっての撮影時刻、露光、陰影の付け方、レンズの選択、シャッター速度の設定、現像の手法等における工夫の双方であり、その一方ではないことは、論ずるまでもない」と示され、撮影・現像等の創意工夫だけでなく、それらと被写体とが一体となって写真としての保護を受けることになるとされており、写真の著作物性は広範囲に認められているからです。もちろん、同東京高裁判決は最高裁判決ではなく、やや趣の異なる裁判例も多々あります。しかしながら、構図やアングル、配置や場所の選定などに工夫が認められるような写真については著作物性を認める裁判例が多いと思われます。そのことをよく示している裁判例は、知財高裁平成18年3月29日判決(スメルゲット事件)の「創作性が微少な場合には、当該写真をそのままコピーして利用したような場合にほぼ限定して複製権侵害を肯定するにとどめるべき」ではないかと思われます。

 ということで、今回、ご紹介しましたさいたま地方裁判所の判断は、至極当然の判断ともいうべきもので、第三者が撮影した写真については、特に、慎重に取り扱おう!という教訓をあらためて示しているものと言えます。
2023年4月3日

執筆者:弁護士 室谷 光一郎