芸名・バンド名は誰のものか? 2

 昨年12月12日の本コラムでは、愛内里菜事件判決(東京地裁令和4年12月8日判決)を取り上げました。同判決では、専属契約における芸名使用禁止条項が公序良俗に反し、無効との判断を行い、そして、芸名に関するパブリシティ権は愛内里菜さんに帰属するとの判断を行いました。

 そして、同時期の令和4年12月26日、上記事件とパラレルに考えることができる判決(FEST VAINQUEUR事件)が知財高裁において出されました。本事件は、プロダクションと専属的マネジメント契約を締結し、「FEST VAINQUEUR」との名称(「本バンド名」といいます)でバンド活動に従事していたバンドメンバーらが、同契約終了後、本バンド名を用いてバンド活動を継続しようとしたところ、プロダクション側から専属的マネジメント契約によって契約終了後6か月間、一審被告会社の承諾なしに実演を目的とする契約を締結することが禁止されておりプロダクションは承諾をしていない、また、本バンド名に関するパブリシティ権及び実演家人格権(氏名表示権)はプロダクションに帰属していると主張されたことから争われた事件です。そして、知財高裁は、まず、契約終了後の6か月間の競業避止義務規定は、実演家としての活動を広範に制約し、自ら習得した技能や経験を活用して活動することを禁止するものであって、職業選択の自由ないし営業の自由を制約するものであり、本条項による制約に合理性がない場合には本件条項は公序良俗に反し無効であると示し、その合理性はないと判断を行いました。また、パブリシティ権は人格権に基づく権利であって会社に譲渡できるとは考え難いとし、専属的マネジメント契約によって、人格権に由来するパブリシティ権の帰属を、プロダクションに定めたなどということはできないと判断を行いました。そして、プロダクション側からの専属的マネジメント契約における上記規定は先行投資回収のために設けたものであるとの主張についても、知財高裁は、利益を分配するなどの方法による金銭的な解決が可能であるから関係がないとして退けました。

 愛内里菜事件判決及びFEST VAINQUEUR事件判決からは、専属契約等において、契約終了後の芸名使用禁止、他事務所への移籍制限が定められるという慣行やビジネスモデルについては変更を迫られてきているということを見て取ることができます。ただ、プロダクションは先行投資の回収という目的からこのような規定を入れてきたものであり、そのような目的について過小評価となりがちな判決が相次いでいることがこのまま定着するのか否かはもう少し、裁判判決の積み上げが必要にも感じます。ただ、エンタメ業界はパブリシティ権等に関する専属契約等の見直しが迫られているということは言えるのではないかと思います。
2023年2月24日

執筆者:弁護士 室谷 光一郎