アバターに対する誹謗中傷も名誉毀損になるのか?
報道ベースになりますが、本年8月31日に、大阪地裁は、自身の分身としてデジタル上で表示される「アバター」への誹謗中傷が名誉毀損に当たるかが争われた訴訟で名誉毀損に当たるとの判決を出しました。同判決は、Vチューバー(VTuber)に対する誹謗中傷も人格権侵害を構成するという昨今の裁判例の流れと符合するものであり、非常に示唆的な判決となりました。
名誉毀損とは。 また、アバターの言動は、当該人物の表現行為と言えるものなのか?
そもそも、名誉毀損とは、「人」の社会的評価を低下させる行為のことを指し示すものですので、対象者は「人」であることが前提です。そのため、アニメやデザイン等で登場するキャラクターに対する誹謗中傷はそれ自体では名誉毀損に該当しないと考えられています。そのことをパラレルに考えますと、アバターも「人」ではなく、ある種のキャラクターですので、当該アバターに対する誹謗中傷は名誉毀損にならないのではないかと考えられそうです。しかしながら、アバターは一種のキャラクターでありながら、その言動は、アバターを作成した実際の人間の個性を生かしたものであり、また、その人物の体験や経験を反映しているものです。このような実態に照らすと、アバターの言動は、当該人物の表現行為と言えるものであることから、同言動に対する誹謗中傷はそのまま当該人物の名誉毀損だと大阪地裁は認定するに至りました。デジタル上での表示分身もそれ自体として法的主体性を有するという判断です。
昨今、メディア・エンタメ業界だけでなく、広く経済社会全般において、メタバースが取り上げられ始めております。メタバースにおいては、アバターが必須のものとなり、アバターの権利保護(というべきどうかはやや不正確ですが)の確立が求められており、本大阪地裁判決はそれに沿った内容になると思われます。匿名性があるからか、罵詈雑言を投げかけあっているのがネット社会の負の側面ですが、アバターに対する誹謗中傷も名誉毀損に該当する流れからは、そういった負の側面も少しづつ緩和されることが期待されます。