メディア・エンタメ業界 「口約束」文化からの脱却か?

 初回コラムでは、メディア・エンタメ業界においても「法の支配」が進んでいるのではないかという内容を書かせていただきました。そして、今回は、その続きとも言える2022年7月27日に出された「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン」(文化庁)について取り上げさせていただきます。

文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン

 メディア・エンタメ業界には大きく分けて2種類の形態の方々がいらっしゃいます。アーティスト、俳優、歌手等といった実演家・芸術家の方々と、その実演・芸術を支えるカメラマン、CA、映像ディレクター、AD、音効、アニメーター等といったスタッフの方々です。実演家・芸術家は芸能プロダクション等と専属契約を締結している方、スタッフは制作会社等と雇用関係を締結している方がおられる一方で、いわゆるフリーの方々が多くいらっしゃるのがメディア・エンタメ業界の特徴です。それは、おそらく「自分のタレント・能力で様々な創造的なものを制作するぞ!」というメディア・エンタメ業界に携わる方々独特の心性にフリーという形態が調和し、メディア・エンタメ業界の売上は作品の売上に連動することが多いため、関係者の人件費も弾力的・柔軟にできる方が好ましく、フリーという形態が整合するということに起因していると思います。

 フリーという形態は、その自由さを具現化するかの如く、契約関係もザルというか、口約束が当たり前というような状況が多いです。他方、契約書すらない関係は、実演家・芸術家及びスタッフに不利な条件提示がされることも多く、報酬額や活動機会の減少を是正できない状況も生じています。そのような状況に対し、2022年7月22日、文化庁は、「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン」を出しました。その内容は、1)契約内容明確化のための契約の書面化、2)取引の適正化の促進を訴えるものです。そして、取引の適正化の促進の観点からして、契約書において明確化すべき事項を提示しました。すなわち、①業務内容、②報酬等、③不可抗力による中止・延期、④安全・衛生、⑤権利、⑥内容変更であり、あわせて契約書のひな形例と解説も出されています。

 国が、メディア・エンタメ業界におけるフリーという形態の不利益性に着目し、その是正のためにガイドラインを出したということ、それ自体はとても意義深く、メディア・エンタメ業界ではその姿勢に応じた対応を今後、しっかりと行っていくことが求められます。他方、本ガイドラインで示されている内容は、正直、ミニマムな内容しかなく、その充実を図ることが各現場において求められます。重要なことは、メディア・エンタメ業界にも、いよいよもって「口約束」文化からの脱却が求められる時代が到来し、その対応をすべき事態となっているということだと思います。

2022年9月20日

執筆者:弁護士 室谷 光一郎