YouTubeやTikTokに既存の音楽を使うと著作権侵害になる?―SNSへの動画投稿と音楽の権利(2)―

1 はじめに
 前回は、音楽には作詞家、作曲家、音楽出版社、アーティスト、レコード会社など複数の人の複数の種類の権利が関係していることについてご説明しました。
 今回は、JASRACの役割やSNSでの音楽使用との関係についてご説明します。

2 JASRACの役割
 JASRACは、作詞家や作曲家などの本来の著作権者から信託を受けて著作権を行使する団体です。日本では、音楽の著作権者の多くがJASRACやNexToneといった著作権管理団体に著作権を信託しています。本稿では、著作権管理団体のうちJASRACに絞ってその役割等についてご説明します。
では、なぜ著作権者は著作権をJASRACに信託しているのでしょうか。
JASRACへの著作権の信託は、著作権者にとっても音楽の利用者にとってもメリットがあるシステムなのです。

(1)著作権者のメリット
 作曲家などの著作権者自身が著作権を管理しなければならないとすると、音楽の利用を希望する人との交渉・連絡や利用料金の請求、著作権侵害行為を行う人への対応など、著作権関係の業務が多く発生し、本来の業務に支障をきたしてしまうことが考えられます。JASRACに著作権を信託することによって、本来の業務に集中できるというメリットがあります。

(2)利用者のメリット
音楽の利用を希望する人は、その音楽の著作権者が誰であるかを確認して連絡を取り直接交渉するのが難しい場合がありますが、JASRACが管理している音楽であれば利用料の額や手続が分かりやすいというメリットがあります。

3 JASRACが引き受けているのは音楽に関係する権利の一部
 前回の記事で音楽の権利関係は複雑という話をしましたが、さらに問題を複雑にしているのが、日本では音楽の著作権者の多くはJASRACなどに著作権の「一部」を信託して行使を任せていることです。
著作権者はJASRACに任せる権利と任せない権利を選んで著作権の一部を信託することができます。また、JASRACは著作権のうち、音楽を勝手にアレンジされたり二次創作されたり歌詞を翻訳されたり替え歌を作られたりしない権利(翻案権)については信託を受けないというルールになっており、翻案権は作曲家などの著作権者自身が行使します。
 さらに、JASRACは著作隣接権、つまりアーティストやレコード製作者の権利については信託を受けておらず、著作隣接権はアーティストやレコード製作者がそれぞれ行使することになっています。

4 JASRACは主要なSNSと著作権について契約している
 JASRACは、YouTube、TikTok、Instagramを含む主要な動画投稿サービスと利用許諾契約をしています。その内容は、JASRACが著作権者から信託を受けている範囲内の権利については、JASRACから都度許諾を得なくてもSNS利用者がSNS上で音楽を使用できるというものです。
 しかし、これでSNS上では好きに音楽を使えると安心することはできません。なぜなら、上述したとおり、JASRACは、音楽に関係する権利が複数あるうちの著作権の一部しか管理していないからです。
 つまり、JASRACが管理している権利については許諾を得なくても良いとしても、JASRACが管理していない権利については、やはりそれぞれの権利者から許諾を得なければならないことになります。

5 まとめ
少し話が複雑になってきましたが、まとめると、音楽の権利は複数の人に分けて帰属しており、例えば以下のようなパターンがあります。
・著作権(の大部分)→JASRACやNexTone
・翻案権→作詞・作曲家や音楽出版社
・原盤権→レコード製作者やアーティスト

 今回は、JASRACの役割やSNSでの音楽使用との関係についてご説明しました。
 次回は、今回までにご説明した音楽の権利関係を踏まえて、他人の権利を侵害することなく音楽を使用した動画をSNSに投稿する方法についてご説明します。
2024年8月30日

執筆者:弁護士 山﨑 絢香