メディア業界における「法の支配」の深化?

 室谷総合法律事務所は、代表弁護士室谷光一郎がメディア業界での映像等制作実務に携わっていた経験を活かし、「弁護士×メディア経験知・専門性」を特長としたメディア業界に関するリーガルサービスの提供を専門的に行っております。
業務としてはテレビドラマ等の法律監修からテレビ局の顧問業務まで、クライアントは個人の芸能人からテレビ局等のメディア会社まで、幅広くメディア業界に関するリーガルサポートを行っております。
そこで、今般、「弁護士×メディア経験知・専門性」の内容を知っていただきたく、メディア業界に携わる全ての会社、個人の皆様のお役に立てるよう、HPを開設するに至りました。本コラム欄では、今後、メディア業界に関する単なる個人的感想(失礼致します)からメディア業界に関わるリーガル情報まで幅広く、定期的に発信していく予定にしております。

初回のコラムは、昨今のメディア業界における「法の支配」に関する内容です。

メディア業界における法律の重要性を伝えたのは、古くは、20世紀初頭にドイツからやってきたウィルヘルム・プラーゲ博士の著作権使用料恫喝?(笑)ではないかと思われます。
それまで、フリーライド当たり前の風潮の日本(少し前のパクリ何でもアリの某国を想像してもらえれば)にやってきたプラーゲ博士は、欧米5か国の著作権団体の代理人だと名乗り、NHKをはじめ、様々な会社・団体に著作権使用料を請求しまくります。
なんと、当時、日本はベルヌ条約(1886年にヨーロッパ諸国を中心に著作権にかかわる国際的ルールを定めた条約。日本は1899年に加盟)を批准しておりましたので(内容を分かっていたのかどうか・・・)、プラーゲ博士の請求は(金額はともかく)根拠のあるものであり、その金額が定まらないうちは、外国曲のラジオ放送が出来ないなんて事態まで発生しました。
そのような中、1939年に著作物に関する仲介業務に関する法律が制定され、後のJASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)が成立したのです。これら一連の騒動を「プラーゲ旋風」と呼称したりします。なお、プラーゲ博士は、すったもんだの挙句、著作権仲介業務から外され、1941年12月の太平洋戦争開戦前後に日本を後にしました。

 さて、著作権、主に音楽を起点にして、法律や法的枠組みがメディア業界に浸透していきますが、戦後のメディア業界(主に放送局、新聞社)は、クロスオーナーシップによるグループ化が進み、アメリカほどではありませんが、メディア・コングロマリットが形成され、それに並行して二強の広告代理店体制が構築される中で、メディアの寡占化・集中化が進み、権利分配等の構造も固まっていきました。
そのような権利関係・権利分配の固定化に伴い、流動的な権利関係に対応する法律や法的枠組みが重視されることはなかったように思います。
そんな状況ですから、何億円もの規模の映像制作の業務委託契約書、広告契約書がないなんて状況がザラだったのは当然とも言えます。メディア業界では、メディア・コングロマリットに対応した人間関係・業界ルールだけで完結しており、法律も法律家もそんなに必要ではなかった状況が続いていたように思います。

 とはいえ、バブル崩壊を起点とする社会構造の流動化、グローバル化社会の到来、そして、何よりもIT社会の到来によるメディア構造そのものの変容(昨今流行りのNFT、メタバースもここに入ります)によって、業界ルールだけでは対応できなくなりつつある事態となってきました。
それに並行して、権利関係・権利分配等の固定化から流動化へと動き、著作権法にも日が当たり始め、エンタメロイヤーなる単語も出てくるようになり、メディア業界にも法律や法律家の重要性が浸透し始めるようになってきました。
こうして、BtoBが主軸ですが(現時点でも主流はそうです)、メディア業界も他の業界と同じく、法律や法律家の位置づけが重要になってきました。

 残されたのは、メディア業界に関わっている人々です。メディア業界にいるアーティストやエンターテイナー等(会社員は除きます)の待遇問題は、そっとしておかれた状態だったともいえます。
「漫才するなんて言いながら安定を求める奴は成功するわけがない!」という感じのように、メディア業界で成功を目指すなら待遇・境遇を気にするのはおかしいという風潮がありました。
アイドルグループ「光GENJI」には15歳未満のメンバーがいたことに端を発し、1988年、当時の労働省がいわゆる「芸能タレント通達」を発し、芸能人の労働者性を論じました。
ただ、その後、この問題が深化したとは決して言えませんでした。
それがガラリと変化したのは最近です。
昨今、「正社員」を前提とする日本型の働き方が変容し、働き方の多様化が進展する中で、2021年3月26日に「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省)、2022年7月27日に「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン」(文化庁)と立て続けに、政府ガイドラインが出され、メディア業界に関わっている人々に関する法的状況についても本格的に論じられるようになりました。

 こうして、長い歴史をかけて、メディア業界においても、法律や「法の支配」が浸透していったと思われます(上記流れについてはかなり私見色が強いですが・・・)。
他方で、業界ルールがなぜ重要なのかということについては上述したような歴史的背景がありますので、業界ルールをしっかりとおさえることはとても重要です。

 気が付けば、初回コラムは漫談調的な内容となりましたが、次回からは、メディア業界で押さえておきたいリーガルネタを定期的にアップしていきたいと思います。今後もご笑覧いただければ幸いです。

2022年8月22日

執筆者:弁護士 室谷 光一郎