AIと著作権③

 2023年7月31日付コラム、2024年2月5日付コラムに引き続き、「AIと著作権」に関する内容を今回も取り上げさせていただきます。
 2024年2月5日付コラムでご紹介をさせていただきました2024年1月15日付「AIと著作権に関する考え方について(素案)」(文化審議会著作権分科会法制度小委員会)の公開後(以下、「1月版」といいます)、文化庁はパブリックコメントを募集、反映し、2024年2月29日付「AIと著作権に関する考え方について(素案)」(文化審議会著作権分科会法制度小委員会)の最新版(以下、「最新版」といいます)を発表しました。

AIと著作権に関する考え方について(素案)最新版

 最新版の内容は1月版を踏襲しつつも、パブリックコメントの結果を踏まえ、各論点の深掘りが進んだ内容となっております。AIと著作権を考える上では、①学習・開発段階、②生成・利用段階、③生成物の著作物性の段階で行うという枠組みを1月版で示されており、最新版もその枠組みに沿っております。そして、①学習・開発段階においては、「享受目的」(著作権法30条の4)がなければ著作権侵害にならないという枠組となっており、その点について、コンテンツ関係会社、クリエイターの方々からすると、享受目的がなければ学習・開発が勝手にされてしまうリスクがあるとの懸念がありました。そのような懸念に対応して、最新版では、「アイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されること等の事情が、法第30条の4との関係で『著作権者の利益を不当に害することとなる場合』には該当しないとしても、当該生成行為が、故意又は過失によって第三者の営業上の利益や、人格的利益等を侵害するものである場合は、因果関係その他の不法行為責任及び人格権侵害に伴う責任の要件を満たす限りにおいて、当該生成行為を行う者が不法行為責任や人格権侵害に伴う責任を負う場合はあり得ると考えられる」と踏み込みました。また、②生成・利用段階においても、依拠性がないというためには、「学習に用いられた著作物と創作的表現が共通した生成物が出力されないよう出力段階においてフィルタリングを行う措置が取られている場合や、当該生成AIの全体の仕組み等に基づき、学習に用いられた著作物の創作的表現が生成・利用段階において生成されないことが合理的に説明可能な場合」等が想定されるとして依拠性要件を厳格に考える姿勢も打ち出されました。

 しかしながら、現在の著作権の枠組みにおいては、コンテンツ関係会社、クリエイターの方々からすれば、AIの進展はフリーライドを横行させる事態になりかねず、その懸念は拭えておりません。今後も議論を注視していく必要があります。
2024年4月10日

執筆者:弁護士 室谷 光一郎