AIと著作権②

 2023年7月31日付コラムでも、「AIと著作権」を取り上げさせていただきましたが、こちらについて更なる動きがありましたので、今回も取り上げさせていただきます。
 2024年1月15日、文化審議会著作権分科会法制度小委員会において、「AIと著作権に関する考え方について(素案)」の最新版(以下「本素案」といいます)が公表されました。

AIと著作権に関する考え方について(素案)

 前回コラムでも記載しましたとおり、AIと著作物の関係については、3つの段階で考えることが重要でありますが、本素案でも改めて示されています。すなわち、①学習・開発段階、②生成・利用段階、③生成物の著作物性となります。そして、本素案では、主に著作権法第30条の4(「著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」)との関係で著作権法違反となり得る場合等について、従前よりも具体的事例を織り込みながら論じています。

 まず、①学習・開発段階ですが、非享受目的があったとしても享受目的が併存し、享受目的があると認定できれば同条の適用がないことが明記されました。例えば、「追加的な学習のうち、意図的に、学習データに含まれる著作物の創作的表現をそのまま出力させることを目的としたものを行うため、著作物の複製等を行う場合」です。アウトプットを想定するか否かが享受目的性認定のポイントになるように思われます。次に、②生成・利用段階では、類似性については、従前の「表現上の本質的な特徴」が感得できるかどうかという視点は変わらないことが改めて示されました。そして、依拠性については、AIの特徴を踏まえて、「AI利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI学習用データに当該著作物が含まれる場合」について、その客観的事実から著作権侵害が推認されることが明記されました。客観的事実から依拠性を推認するという従前の手法がここでも改めて確認されたと思います。そして、③生成物の著作物性認定では、創作的寄与がどの程度の積み重なっているのかということを総合的に考慮する必要があるとして、(1)指示・入力の分量・内容、(2)生成の試行回数性、(3)複数の生成物からの選択等の考慮視点が提示されております。人間の創作的寄与があるかどうかが重要だということが改めて確認されたと思います。

 本素案は、従前の著作物性、類似性、依拠性、制限規定の該当の有無で著作権侵害の有無を考えるという骨格は変わらないことは確認しつつ、AIの特徴に沿ってより具体的事例を提示したものとして意義があります。そして、今後もこのような論点及び具体的事例の提示がなされていくと思われますので、AIと著作権は今後の議論を注視し続ける必要があります。

2024年2月5日

執筆者:弁護士 室谷 光一郎