芸能事務所とタレントの契約――「専属マネジメント契約」「エージェント契約」の違い
芸能事務所とタレントとの関係のあり方が見直される中で、「専属マネジメント契約」に代わる契約形態として、「エージェント契約」が注目されています。
専属マネジメント契約とは、事務所がタレントの営業活動や契約交渉等に加えて、育成やスケジュール管理、トラブルの処理など時に日常生活にも及ぶ全面的なサポートを担うかわりに、タレントは事務所に所属して専属的な活動を行うものです。タレントにとっては、まだ経験がない時点からレッスンなどを受けられるほか、芸能活動に専念できるメリットがあります。その反面、引き受ける仕事の決定権は事務所にあるため、自身の意向を反映するのが難しくなりがちな側面があります。また、事務所の庇護下にあるがゆえに過大な義務を課されることなども構造的に起こりやすく、不当な扱いを受けた場合に外部に訴えることも難しいという問題が指摘されています。
他方芸能事務所にとって専属マネジメント契約は、タレントが「売れる」かどうか分からない段階から将来を見込んで育成し、マネージャーを付けてサポートしたうえで、商品として売り込んで投下資本を回収するというビジネスモデルになっています。その分事務所のリターンは大きく、また、営業方針等も事務所が最終的に決めることが出来ます。
なお、タレントの働き方は事務所によって異なるため一概には言えませんが、労働法的な観点から見れば、専属マネジメント契約の場合はタレントへの時間的な拘束や指揮監督関係が強いことが多いため、その実態によっては労働契約関係にあたると認められる場合もあります。
一方でエージェント契約とは、営業や交渉など、代理人として仕事を獲得する「エージェント」業務だけをタレントが事務所に対して委託する契約をいいます。この場合、事務所が探してきた仕事を受けるかどうかの最終決定権はタレントにあります。また、専属契約でなければいくつかのエージェントを用いることもできますし、エージェントを通さず直接仕事を受けることも可能です。
その一方で、マネジメントやスケジュール管理などはタレント自身が行うことが基本的な前提になります。事務所はマネジメントや育成にかかるコストを負わずに済みますが、その分タレントが自ら負わなければなりません。特にキャリアの浅いタレントにとって、レッスン料等の負担は大きく、また、どの仕事を受けるべきか、受けるべきでないかの的確な判断は難しいというデメリットがあります。
不祥事発覚の結果、いくつかの大手事務所が専属エージェント契約を導入した旨のニュース等を通じて、事務所とタレントのオルタナティブなあり方として「エージェント契約」の自由度が強調される風潮があります。しかしながら、エージェント契約とマネジメント契約は必ずしも二者択一のものではありません。例えばエージェント契約を採用しつつもマネジメント的要素も事務所に委託し、その分事務所の取り分を増やすという選択もあり得るでしょう。純粋なエージェント契約を採用することによって、タレントの弱い立場が剥き出しになりかねないことが見落とされる懸念もあります。
根本的な課題の所在は、契約の形式そのものというよりも、これまで日本の芸能業界ではタレントを取り巻くあらゆる活動について、それが「法的な契約に基づく業務であること」が明確に観念されてこなかったことにあります。だからこそ、タレントと事務所との契約内容は不文律的に扱われ、合意形成のプロセスに法律の専門家はかかわってきませんでした。実際のところ、芸能分野の契約のありかたは、かならずしも既存の契約形式になじむものでもないのかもしれません。だからこそ現場ごとの個別の実態を汲み上げ、双方のニーズを法的に再解釈しながら、事務所・タレント双方からみて健全な契約の枠組みと交渉プロセスを志向していくことが今後重要になるはずです。
専属マネジメント契約とは、事務所がタレントの営業活動や契約交渉等に加えて、育成やスケジュール管理、トラブルの処理など時に日常生活にも及ぶ全面的なサポートを担うかわりに、タレントは事務所に所属して専属的な活動を行うものです。タレントにとっては、まだ経験がない時点からレッスンなどを受けられるほか、芸能活動に専念できるメリットがあります。その反面、引き受ける仕事の決定権は事務所にあるため、自身の意向を反映するのが難しくなりがちな側面があります。また、事務所の庇護下にあるがゆえに過大な義務を課されることなども構造的に起こりやすく、不当な扱いを受けた場合に外部に訴えることも難しいという問題が指摘されています。
他方芸能事務所にとって専属マネジメント契約は、タレントが「売れる」かどうか分からない段階から将来を見込んで育成し、マネージャーを付けてサポートしたうえで、商品として売り込んで投下資本を回収するというビジネスモデルになっています。その分事務所のリターンは大きく、また、営業方針等も事務所が最終的に決めることが出来ます。
なお、タレントの働き方は事務所によって異なるため一概には言えませんが、労働法的な観点から見れば、専属マネジメント契約の場合はタレントへの時間的な拘束や指揮監督関係が強いことが多いため、その実態によっては労働契約関係にあたると認められる場合もあります。
一方でエージェント契約とは、営業や交渉など、代理人として仕事を獲得する「エージェント」業務だけをタレントが事務所に対して委託する契約をいいます。この場合、事務所が探してきた仕事を受けるかどうかの最終決定権はタレントにあります。また、専属契約でなければいくつかのエージェントを用いることもできますし、エージェントを通さず直接仕事を受けることも可能です。
その一方で、マネジメントやスケジュール管理などはタレント自身が行うことが基本的な前提になります。事務所はマネジメントや育成にかかるコストを負わずに済みますが、その分タレントが自ら負わなければなりません。特にキャリアの浅いタレントにとって、レッスン料等の負担は大きく、また、どの仕事を受けるべきか、受けるべきでないかの的確な判断は難しいというデメリットがあります。
不祥事発覚の結果、いくつかの大手事務所が専属エージェント契約を導入した旨のニュース等を通じて、事務所とタレントのオルタナティブなあり方として「エージェント契約」の自由度が強調される風潮があります。しかしながら、エージェント契約とマネジメント契約は必ずしも二者択一のものではありません。例えばエージェント契約を採用しつつもマネジメント的要素も事務所に委託し、その分事務所の取り分を増やすという選択もあり得るでしょう。純粋なエージェント契約を採用することによって、タレントの弱い立場が剥き出しになりかねないことが見落とされる懸念もあります。
根本的な課題の所在は、契約の形式そのものというよりも、これまで日本の芸能業界ではタレントを取り巻くあらゆる活動について、それが「法的な契約に基づく業務であること」が明確に観念されてこなかったことにあります。だからこそ、タレントと事務所との契約内容は不文律的に扱われ、合意形成のプロセスに法律の専門家はかかわってきませんでした。実際のところ、芸能分野の契約のありかたは、かならずしも既存の契約形式になじむものでもないのかもしれません。だからこそ現場ごとの個別の実態を汲み上げ、双方のニーズを法的に再解釈しながら、事務所・タレント双方からみて健全な契約の枠組みと交渉プロセスを志向していくことが今後重要になるはずです。