生成AIと「声」の保護のあり方について

 本コラムでも生成AIについて取り扱ってきましたが、知的財産権に関する範囲においては、本日段階では、2024年5月に政府の「AI時代の知的財産権検討会」が提示した「AI時代の知的財産権検討会 中間とりまとめ」(以下、「中間とりまとめ」といいます)が大きな指標になっております。
AI時代の知的財産権検討会 中間とりまとめ

 しかしながら、生成AIは容易に様々な創作を行っていくことから、既存権利関係との相克が生じ、その権利関係の調整・規制はまだ明確なものではありません。AIによって容易に生成できる「声」の保護もその一つです。実際、アニメのキャラクターの声で好きな歌を歌わせる等、無断で作られた音声や映像がネット上に投稿されたり、販売されたりするケースがみられるようになってきました。こうした状況に対し、2024年11月13日、日本俳優連合、日本芸能マネージメント事業者協会及び日本声優事業社協議会の3団体は、AIで声優の声を利用する際には本人の許諾を得ることやAIの音声であると明記すること等を求める声明を発表しました。

 中間とりまとめにおいても、「声」の保護についての法的課題は明記されています。まず、肖像権は判例上「容ぼう等」の保護であるとされていることから、「声」を肖像権によって保護することは困難です。ただ、音声データが「実演」に該当する場合は著作隣接権、商標的使用に該当する場合は商標権、「営業秘密」、「限定提供データ」、周知又は著名な「商品等表示」、「品質」等に該当する場合は不正競争防止法によって保護される可能性があります。そして、生成A により生成された音声を用いて他人になりすます等の行為は、詐欺罪、偽計業務妨害罪等の刑事罰を負う可能性がある上、名誉毀損、名誉感情侵害等に基づく民事上の責任が生じ得ることも明記されております。ただ、いずれも限定的保護の領域にとどまると思われます。そこで、より検討すべきは、パブリシティ権による保護です。ピンク・レディー事件最高裁判決(最判平成24年2月2日)の調査官解説において、パブリシティ権の客体である「肖像等」については、本人の人物識別情報を指し、「声」は「肖像」そのものではないとしても、「肖像等」には「声」が含まれると明示されていることからして、「声」の保護はパブリシティ権によってまずは検討するべきではないかと思われます。そして、パブリシティ権は、顧客吸引力を排他的に利用する権利であるため、具体的な利用態様や状況に鑑み、「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」(ピンク・レディー事件判決での例示要件)であれば、「声」に対するパブリシティ権による保護は及ぶと考えられます。とは言え、具体的利用態様や状況を検討してから、その「声」が保護対象になるかどうかというプロセスを経ることになりますので、その保護の射程は明確なものではありません。アメリカ等では、成文法及びコモンローにおいて、「声」の権利について一定の保護が及ぶとされていますが、わが国では上記のような状況にとどまっております。

 様々なコンテンツにおける「声」の魅力、すなわち、声優の演技の領域ではない「声」の持つ魅力は明らかであり、そのようなコンテンツ制作の一翼を担う声優の権利をしっかりと保護をしていくことは、コンテンツビジネスをバックアップしていくためにも、国家戦略上求められます。また、中間とりまとめの文間には、その意識を読み取ることが出来ますので、今後、新たな法解釈、ガイドライン策定、立法が出てくることも考えられ、「声」の保護について、しっかりと検討していく必要があります。
2024年12月17日

執筆者:弁護士 室谷 光一郎