メディアコラム 棋譜の動画配信についての裁判例(大阪地判令和6年1月16日)
(1) 事案の概要
原告は将棋ユーチューバーで、被告が配信する対局中継番組からその対局の棋譜情報を得て、YouTubeやツイキャスで原告が用意した将棋盤面に対局者の指し手を再現して表示し、視聴者とコメントでコミュニケーションを行う内容等の動画を配信していました。なお、原告は、被告が配信する番組の映像、画像、音声等は一切使用しておらず、あくまで被告の番組を視聴して得られる棋譜の情報を利用して動画配信を行っていました。
被告は、原告の動画について著作権侵害を理由としてYouTubeを運営するGoogle等に対し動画削除申請を行い、これを受けてGoogle等は原告の動画の配信を停止しました。
原告は、被告がGoogle等に対して原告が著作権侵害行為を行っているとの通知をした行為が、不正競争防止法に規定される信用棄損行為(不正競争防止法2条1項21号)や不法行為(民法709条)に該当すると主張し、差止めや損害賠償等を求めました。
(2) 棋譜は著作物か
著作権法で保護される著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)と規定されています。
将棋の棋譜が著作物にあたるか否かについては以前から学説上議論が行われてきましたが、著作物にあたらないとの説が有力です。
具体的には、将棋の棋譜は、作成者の表現上の思想感情が盛り込まれているわけではなく、また、勝負の一局面を決まった表現方法で記録したものであって創作性がないから、事実の記録にすぎず、著作物にはあたらないという考え方や、棋士は創作的に指し手を選択しながら対局を進めているが、その創作性は勝利の追求に向けられているのであって表現に向けられているものではないから著作物にはあたらないという考え方等が提示されてきました。
本件では、原告の行為が被告の著作権を侵害しないことについては原告被告間で争いがありませんでした。そのため、本判決は棋譜が著作物にあたるか否かを裁判所が直接判断したものではありません。
もっとも、本判決は、原告の行為が不法行為にあたるかの判断にあたって、「棋譜等の情報は、被告が実況中継した対局における対局者の指し手及び挙動(考慮中かどうか)であって、有償で配信されたものとはいえ、公表された客観的事実であり、原則として自由利用の範疇に属する情報である」と述べており、棋譜は著作物でないことを前提とした判断が行われているように読むことができます。
(3) 原告の行為が不正競争防止法の信用棄損行為にあたるか
不正競争防止法2条1項21号の信用棄損行為とは、「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」と規定されています。
本判決では、原告が配信した動画は被告の著作権を侵害するものではなく、そのことを被告自身も認めているにもかかわらず削除申請を行っており、このことはYouTubeの運営を行うGoogle等に対し、原告の「動画が被告の著作権を侵害する旨を摘示するものであるから、客観的な真実に反する内容を告知するものとして、「虚偽の事実の告知」に当たる」と判示し、被告が行った削除申請が信用棄損行為にあたることを認めました。
(4)原告の行為が不法行為にあたるか
本判決は、被告の削除申請はGoogle等に対し原告の動画が著作権を侵害する違法なものだと摘示する内容であり、これによって原告は動画の配信が停止され、収益を得ることが一定期間停止されたことから、動画配信という営利事業を行う上での信用を害するものとして、原告の「営業上の利益」を侵害し、不法行為責任が認められると判示しました。
この点について被告は、原告の行為は、被告が配信する棋譜情報をフリーライドで利用するという著しく不公正な手段で被告ら棋戦主催者の営業活動上の利益を侵害するものであり不法行為にあたるため、原告の動画配信による営業上の利益は法律上保護される利益に当たらないと主張しました。
しかし、裁判所は、原告が動画で利用した棋譜情報は、被告が有償で配信したものとはいえ、公表された客観的事実で原則として自由利用の範疇に属する情報であり、「王将戦における棋譜利用ガイドライン」では、棋譜の利用権等を王将戦主催者が独占することが規定されているものの、これは王将戦主催者が一方的に定めたものであって原告に対して法的拘束力がないこと、また、原告の動画は被告の著作権を侵害するものではなく、原告の行為が不法行為を構成すると認めるに足りる事情はないことを理由として、被告の主張を排斥しました。
(5)まとめ
本判決は、棋譜情報は「原則として自由利用の範疇に属する」と述べており、棋譜の利用によって不法行為が成立する場合は限られることを示しています。
ただし、どのような利用方法であっても不法行為が成立しないと判断するものではなく、棋譜情報の利用によって不法行為が成立するかどうかは各事例において個別具体的な事情をもとに判断されるものと思われますのでご注意ください。
原告は将棋ユーチューバーで、被告が配信する対局中継番組からその対局の棋譜情報を得て、YouTubeやツイキャスで原告が用意した将棋盤面に対局者の指し手を再現して表示し、視聴者とコメントでコミュニケーションを行う内容等の動画を配信していました。なお、原告は、被告が配信する番組の映像、画像、音声等は一切使用しておらず、あくまで被告の番組を視聴して得られる棋譜の情報を利用して動画配信を行っていました。
被告は、原告の動画について著作権侵害を理由としてYouTubeを運営するGoogle等に対し動画削除申請を行い、これを受けてGoogle等は原告の動画の配信を停止しました。
原告は、被告がGoogle等に対して原告が著作権侵害行為を行っているとの通知をした行為が、不正競争防止法に規定される信用棄損行為(不正競争防止法2条1項21号)や不法行為(民法709条)に該当すると主張し、差止めや損害賠償等を求めました。
(2) 棋譜は著作物か
著作権法で保護される著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)と規定されています。
将棋の棋譜が著作物にあたるか否かについては以前から学説上議論が行われてきましたが、著作物にあたらないとの説が有力です。
具体的には、将棋の棋譜は、作成者の表現上の思想感情が盛り込まれているわけではなく、また、勝負の一局面を決まった表現方法で記録したものであって創作性がないから、事実の記録にすぎず、著作物にはあたらないという考え方や、棋士は創作的に指し手を選択しながら対局を進めているが、その創作性は勝利の追求に向けられているのであって表現に向けられているものではないから著作物にはあたらないという考え方等が提示されてきました。
本件では、原告の行為が被告の著作権を侵害しないことについては原告被告間で争いがありませんでした。そのため、本判決は棋譜が著作物にあたるか否かを裁判所が直接判断したものではありません。
もっとも、本判決は、原告の行為が不法行為にあたるかの判断にあたって、「棋譜等の情報は、被告が実況中継した対局における対局者の指し手及び挙動(考慮中かどうか)であって、有償で配信されたものとはいえ、公表された客観的事実であり、原則として自由利用の範疇に属する情報である」と述べており、棋譜は著作物でないことを前提とした判断が行われているように読むことができます。
(3) 原告の行為が不正競争防止法の信用棄損行為にあたるか
不正競争防止法2条1項21号の信用棄損行為とは、「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」と規定されています。
本判決では、原告が配信した動画は被告の著作権を侵害するものではなく、そのことを被告自身も認めているにもかかわらず削除申請を行っており、このことはYouTubeの運営を行うGoogle等に対し、原告の「動画が被告の著作権を侵害する旨を摘示するものであるから、客観的な真実に反する内容を告知するものとして、「虚偽の事実の告知」に当たる」と判示し、被告が行った削除申請が信用棄損行為にあたることを認めました。
(4)原告の行為が不法行為にあたるか
本判決は、被告の削除申請はGoogle等に対し原告の動画が著作権を侵害する違法なものだと摘示する内容であり、これによって原告は動画の配信が停止され、収益を得ることが一定期間停止されたことから、動画配信という営利事業を行う上での信用を害するものとして、原告の「営業上の利益」を侵害し、不法行為責任が認められると判示しました。
この点について被告は、原告の行為は、被告が配信する棋譜情報をフリーライドで利用するという著しく不公正な手段で被告ら棋戦主催者の営業活動上の利益を侵害するものであり不法行為にあたるため、原告の動画配信による営業上の利益は法律上保護される利益に当たらないと主張しました。
しかし、裁判所は、原告が動画で利用した棋譜情報は、被告が有償で配信したものとはいえ、公表された客観的事実で原則として自由利用の範疇に属する情報であり、「王将戦における棋譜利用ガイドライン」では、棋譜の利用権等を王将戦主催者が独占することが規定されているものの、これは王将戦主催者が一方的に定めたものであって原告に対して法的拘束力がないこと、また、原告の動画は被告の著作権を侵害するものではなく、原告の行為が不法行為を構成すると認めるに足りる事情はないことを理由として、被告の主張を排斥しました。
(5)まとめ
本判決は、棋譜情報は「原則として自由利用の範疇に属する」と述べており、棋譜の利用によって不法行為が成立する場合は限られることを示しています。
ただし、どのような利用方法であっても不法行為が成立しないと判断するものではなく、棋譜情報の利用によって不法行為が成立するかどうかは各事例において個別具体的な事情をもとに判断されるものと思われますのでご注意ください。