ファンドスキームを通じた映画製作の始まりと映画製作スキームについて

 2025年6月3日、今後の映画製作スキームに大きな影響を及ぼすような発表が2つなされました。まず、1つ目は、三菱UFJフィナンシャルグループが約66億円を投じて、Japan Creative Works1号投資事業有限責任組合という映画ファンドを組成するということです。株式会社講談社と実写版映画「キングダム」などの映画を制作している株式会社クレデウスが合同して設立する合同会社CK WORKSに資金出資をすることで大型映画を製作するというものであり、実質的に金融機関が組成するファンド資金で大型映画製作を行うという日本ではほぼ初めての試みとなります。
Japan Creative Works1 号投資事業有限責任組合の設立と金融とエンターテインメントを融合させた新たな提携事業について

 2つ目は、東映出身者などで設立された株式会社K2 Picturesが、任天堂創業家の資産管理会社合同会社Yamauchi-No.10 Family Officeと資本提携を行い、ファンド資金を元に映画製作を行っていくという方針が発表されたことです。
合同会社 Yamauchi-No.10 Family Office、株式会社 K2 Pictures 資本提携のお知らせ

 この2つの動きの共通点は、テレビ局や広告代理店、出版社など直接の制作関係者が資金を出し合うことで映画製作を行うという製作委員会方式とは異なって、金融機関や投資家などが映画ビジネスで得られるリターンを期待して、ファンドなどを組成して資金投入するというものであり、今後の日本における映画製作に大きな影響を与えることになりそうです。

 日本で、ハリウッドなどで行われているような金融機関や投資家など直接の制作関係者以外から制作資金を投入して映画ごとに特別目的会社(SPC)を設立するなどの映画製作ファンドスキームが取り入れられなかった背景事情としては、金融商品取引法による規制(同法2条2項5号、同施行令1条の3の2)や二重課税リスク(パススルー課税)などが指摘されています。しかしながら、そもそも、日本映画の大半は映画制作費用が最大でも数億円~10億円程度でしかない規模であり、金融機関や投資家が資金投入してこなかったのは、金融機関や投資家からすれば「小型すぎる」と思われてきたことに起因しているように思われます。ただ、昨今は日本映画の海外進出・発信も行われるようになり、大型予算による映画制作の機運も生じ、上記のような動きになってきました。
 ただ、従前の製作委員会方式には、出資者が複数であるから映画がヒットしない場合のリスクヘッジが可能、構成会社の役割分担・広告宣伝等の広がり・シナジー効果と窓口分担による業務の効率化、パススルー課税などのメリットがあります(『知的財産契約の実務 理論と書式 意匠・商標・著作編』商事法務、大阪弁護士会知的期財産法実務研究会編・396頁など)。実際、映画には作品の未完成リスクや収入が計画より下回るリスクがつきものであり、また、映画制作は独特な要素もあり、直接の制作関係者が関わる方がより良いものを制作できるという要素もありますので、製作委員会方式は今後も依然として残るのではないかと思われます。
 とはいえ、エンタメビジネスが国家戦略にも位置付けられ、映画が金融機関や投資家が投資対象としてみられるようになってきたのは大きな変化と言えるでしょう。映画製作にかかる資金スキームに大きな変化が生ずれば、スキーム形成だけでなく制作場面における状況にも大きな法的な変化も生じていくと思われます。そこで、そのような変化に応じたリーガル支援を充実していくことも求められるということが上記の発表から感じられます。
2025年6月12日

執筆者:弁護士 室谷 光一郎