ステルスマーケティング規制による初行政処分について

 2023年6月5日付コラムでご紹介しました「ステルスマーケティング規制」(以下、「ステマ規制」といいます)について、施行後初の行政処分が行われました。医療法人が患者に対し、インフルエンザワクチン接種費用を割り引くかわりに、グーグルマップの病院の口コミに高評価を書き込むよう依頼し、投稿させた行為は“ステマ”に該当し、景品表示法に違反するとして、消費者庁は2024年6月7日、医療法人に対して措置命令を行ったことを公表しました。

 一般的に、広告にはある程度の誇張・誇大表現が含まれるものであり、一般消費者もそのことを認識しています。しかしながら、広告であることを隠したステルスマーケティングに触れた一般消費者は、その表現を警戒せず内容を鵜吞みにしてしまうおそれがあります。その結果、一般消費者が消費活動を行うにあたって「自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれ」(景品表示法5条3号)があります。こうした弊害を予防する目的で、令和5年10月に改正景品表示法が施行され、ステマ規制が導入されました。具体的には、①(外観上第三者の表示のように見えるが)事業者が表示内容に関与する「事業者の表示」である、②一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難であるような広告は“ステマ”であるとして、規制の対象となっています。

 改正当時、ステマ規制の典型的な適用場面として、事業者が事業者であることを隠して自らSNSや口コミの投稿等を行う事例や、いわゆるインフルエンサーなど影響力の大きい第三者に行わせる事例が主に予想されていました。しかしながら、今回初めて行われた行政処分では、想定と異なり、インフルエンサーではない一般人への口コミ投稿依頼がターゲットとなった点が注目に値します。

 事業者から依頼を受けてSNS上で行う「PR投稿」が広く普及した近年、有名人が商品やサービスを褒める投稿を見かけた場合、一般消費者も「やや怪しい」と警戒感を感じるようになってきたかもしれません。しかしながら、同じ消費者の立場である一般の方が書いた口コミは比較的信憑性があると判断しがちです。だからこそ、種々の口コミ投稿がインターネット上には普及しているといえます。しかしながら、その口コミ投稿が、金銭やクーポンなど事業者からの何らかの見返りを期待して行ったものであれば、その投稿の内容には事業者が関与しているといえ、消費者の素直な評価が反映された健全な口コミとは言えません。まさに、広告に見えない広告となっている場面です。

 ステマ規制は本邦で初めてのステルスマーケティングに対する規制であるため、消費者庁としても初めての行政処分をどのような事例に対して下すか、熟慮したものと思われます。結果として、一般人への口コミ投稿依頼の事例を選んだことは、インターネット上に溢れる口コミを操作しようとする事業者の動きに対する警告であると考えられます。そして一般消費者に対しても、事業者から見返りを提示されて高評価の口コミへの協力を求められたとしても安易に応じるべきではないとのメッセージがあると考えるべきではないかと思います。
2024年6月14日

執筆者:弁護士 室谷 光一郎