コンサートチケット高額転売対策について

 コンサートチケットの高額転売は、近年社会問題として大きな注目を集めています。主催者やアーティスト、消費者の間でその是非や対応策が議論されてきました。本コラムでは、チケット転売に対する法的対応について、現行法や判例、実務上の対応策を整理します。

 チケット転売の違法性と規制の枠組を考察する上で前提となるのは、コンサートチケットの転売行為が直ちに違法となるわけではないということです。民法上、チケットは無記名債権として動産に該当し、原則として譲渡や売買が可能です。しかし、営利目的での転売や、いわゆる「ダフ屋行為」については、各都道府県の迷惑防止条例や物価統制令により規制されています。ダフ屋行為とは、転売目的でチケットを購入し、公共の場所で人につきまとう、うろつくなどの行為を指します。営利目的でなければ、余ったチケットをオークションで売ること自体は違法ではありません。ただ、ライブエンタメの興隆とともにコンサートチケットの高額転売は社会問題化していき、ダフ屋行為規制だけでは限界があるとして、2019年には「特定興行入場券の不正転売の禁止等に関する法律(以下、「チケット不正転売禁止法」といいます)」が成立・施行されました。チケット不正転売禁止法は、主に以下の要件を満たす場合に違法転売と認定します。そして、違反した場合、刑事罰も定められています。

① 興行主が販売時に転売禁止を明示していること
② 営利を目的としていること
③ 定価を超える価格で転売すること

 なお、転売禁止のチケットを、転売目的を隠して購入した場合、詐欺罪が成立する可能性があります。神戸地裁平成29年9月22日判決では、営利目的での転売意思を有しながら、それを隠してチケットを購入した行為について、詐欺罪の成立が認められました。同判決は、営利目的転売の意思があるか否かは販売会社にとって重要な事項であり、利用規約で転売禁止が明示されている場合、これに反して購入することは欺罔行為に該当するとしています。ただ、違法転売と認められない場合、すなわち、営利目的でなく、例えば急な都合で行けなくなった場合に定価以下で譲渡するなどのケースは、迷惑防止条例やチケット不正転売禁止法の規制対象外となる場合があります。

 他方、主催側の対応としては、多くの主催者やチケット販売サイトは、利用規約で営利目的の転売を禁止しています。違反が判明した場合、出品の無効化やチケットの無効、ファンクラブからの除名などの措置が取られることがあります。実際に、転売が疑われるチケットでの入場時に本人確認を徹底し、不正が発覚した場合は入場を認めない、永久追放といった厳しい対応を行う例も増えています。

 また、インターネットオークションやフリマアプリなどのプラットフォーム運営者にも、悪質な転売行為の防止に努める責務があるとされています。転売目的を秘して購入した商品は「盗品等」に該当し、運営者がその事実を知りながら売却を仲介した場合、刑法上の盗品等有償処分あっせん罪が成立する可能性があります。近年は、プラットフォーム規制や消費者保護の観点からも法整備が進められています。また、プラットフォーム運営者に対する主催者側の対応として、発信者情報開示命令を求めるという手法もあります。旧ジャニーズ事務所からマネジメント業務を引き継いだ株式会社STARTO ENTERTAINMENTは2024年11月28日、コンサート主催会社を通じて、オンラインで個人間のチケット売買を仲介する「チケット流通センター」の運営会社に対し、出品者にかかる発信者情報開示を求めましたが、同社が応じなかったために、同年12月13日に同社を相手取り、東京地裁に発信者情報開示命令を求める申立てを行い、東京地裁は2025年3月10日、発信者情報開示命令を出しました。こうして開示された情報を元に主催者側が高額転売者に対して損害賠償等ができるようになりました。発信者情報開示命令を通じての高額転売者対策も考えられるということです。

 そもそも、上記したとおり、ライブエンタメの興隆とコンサートチケットの高額転売はパラレルな関係にある以上、主催者や販売会社は、その予防対策をしっかりと行っていくことが求められます。すなわち、転売防止のために電子チケットの導入や、チケットに氏名・住所等の個人情報を記載する、顔写真付き本人確認書類の提示を求めるなどの措置を講じ、転売チケットによる入場を防止し、違反者への抑止力を高めていくことも同時に進める必要があります。その上で、上記したような高額転売者に対する刑事、民事を問わない実効的な対策も行っていくべきと思います。
2025年8月4日

執筆者:弁護士 室谷 光一郎