クリエイターの環境改善の本格化

 「音楽・放送番組等の分野の実演家と芸能事務所との取引等に関する実態調査報告書」(クリエイター支援のための取引適正化に向けた実態調査)について・・・ クリエイターの環境改善の本格化

 2024年12月27日付本コラムで少し触れましたとおり、2024年12月26日、公正取引委員会は、「音楽・放送番組等の分野の実演家と芸能事務所との取引等に関する実態調査報告書」 (クリエイター支援のための取引適正化に向けた実態調査)(以下、「本報告書」といいます)を公表し、独占禁止法に定める「優越的地位の濫用」や「取引妨害」等の観点から芸能プロダクション、放送事業者等及びレコード会社と芸能人等の関係に関する違法行為にかかる見解を示しました。
音楽・放送番組等の分野の実演家と芸能事務所との取引等に関する実態調査報告書

 本コラムで何度か扱っているとおり、コンテンツビジネスがわが国の経済社会に与えるプレゼンスの増大に伴い、コンテンツビジネスの興隆、それを支えるクリエイターの環境改善整備が国家的課題になってきています。本報告書もその一環として公表されたものであり、コンテンツビジネスに関わる企業、人々はその内容が示すものを把握し、態勢作りをしていく必要があります。本報告書では、大要、下記のような行為について、独占禁止法上、問題があると指摘しています。
       
                                  記

1 芸能プロダクションと芸能人等との関係について
(1)過度な専属義務期間の設定、かかる期間設定における説明不十分性
(2)不当な期間延長請求権の規定・行使、かかる規定・行使における説明不十分性
(3)不当な競業避止義務等の設定、かかる義務等設定における説明不十分性
(4)金銭的給付の要求、移籍独立をする実演家に対する妨害、移籍独立をした実演家に対する妨害及び事業者団体による移籍制限によって移籍・独立にかかる妨害行為
(5)成果物に係る各種権利等の利用許諾に関する不当な拒否、不当な芸名・グループ名の使用制限
(6)報酬に関する一方的決定、業務等の強制
(7)契約の透明性を妨げる行為(契約を書面により行わないこと、契約内容を十分に説明しないこと、取引内容の明示性の欠如、報酬に係る明細等の明示性の欠如等)

2 放送事業者等と芸能プロダクション・芸能人等との関係について
  契約を書面により行わないこと、契約内容を十分に説明しないこと、交渉に応じないこと

3 レコード会社と芸能プロダクション・芸能人等との関係について
  不当な実演禁止条項(契約終了後の一定期間、実演家による当該レコード会社以外における収録のための実演(原盤制作、配信等)を行うことを禁止す
 る条項)、不当な再録禁止条項(契約終了後の一定期間、実演家がレコード会社において既にリリースした楽曲等に係る収録のための実演(原盤制作、配
 信等)を行うことを禁止する条項)
                                                                    以上


 本報告書は、所属・発注する企業と芸能人等の関係について、公正取引委員会が所管する独占禁止法に関する違法行為概念(優越的地位の濫用、排他条件付取引、欺瞞的顧客誘引、取引妨害、不当な取引制限、共同の取引拒絶等)に基づき、具体的違法事例を列挙していることに意義があります。最終的には、どの程度の不当性が認定されれば違法行為となるかは個々の判断になりますが、本報告書で列挙された事項については、コンテンツビジネスに関わる企業、人々は早急に点検していくことが求められます。
2025年1月20日

執筆者:弁護士 室谷 光一郎