エンタメビジネスに関する国家戦略とリーガル支援とは

 エンタメビジネスといえば、かつては、子ども向けのビジネスとして軽視され、少なくとも国家戦略として位置付けられることはほぼなかった領域だと言っても過言ではありません。しかしながら、日本経済の長期的停滞と逆比例的にエンタメビジネスは上昇し続け、国内、国外を問わず拡大しています。その中で、21世紀に入ってからはクールジャパン戦略の立ち上げなど、国家としても取り組みが始まってきました。そのような中、2025年3月11日、経済産業省エンタメ・クリエイティブ産業政策研究会が発表しました「エンタメ・クリエイティブ産業戦略中間とりまとめ案【事務局資料】」(以下、「本報告」といいます)は資料価値も高いこともさることながら、今後の日本のエンタメビジネスの国家戦略を考察するうえでも非常に示唆的な内容に溢れています。
エンタメ・クリエイティブ産業戦略中間とりまとめ案【事務局資料】

 まず、本報告では、「日本由来コンテンツの海外売上は、鉄鋼産業、半導体産業の輸出額に匹敵する規模」(3頁)として、エンタメビジネスは自動車産業に次ぐ海外売上を上げていることを紹介しています。ただ、「韓国(ドラマ、音楽、ウェブトゥーン)、中国(ゲーム)が世界市場における主要プレイヤー」(12頁)になっていること、「生成AIの登場により、日本が優位性を持つ2次元アニメ、漫画などの分野においても、中長期的には低下するおそれ」(12頁)があることから、エンタメビジネスに対する国家戦略の構築が必要だと指摘しています。そこで、「8つの不足」を埋める「10分野100のアクション」(15頁)を具体的に提唱しています。すなわち、①海外で「魅せる」機会(リアルイベントが不足)、②国内で「魅せる」拠点(地方創生、代表的拠点等)、③人材・制作能力(人材だけで無く、撮影制作能力も不足)、④新規技術・コンテンツの取込み(スタートアップ支援)、⑤海外勢との戦略的提携(撮影誘致、共同製作、国家間)、⑥収益分配(制作会社、クリエイター人材等)、⑦海賊版対策・正規版転換、⑧総合的な支援体制(まずは海外拠点支援)の「8つの不足」のテコ入れをすべきと提唱しています。

 その中で、リーガル戦略についても具体的に提示しています。すなわち、ゲームについては「法規制への対応に向けた交渉」(26頁)、アニメについては「フリーランス法の遵守の徹底、下請ガイドラインの普及啓発等」(37頁)、漫画・書籍については「クリエイターへの税務や法制度のサポート体制における構築を支援」(44頁)、音楽については「関係当事者間の契約関係等について、クリエイター・アーティスト等を志す者が継続的に現れるような環境を確保する観点から、関係省庁と連携しつつ、情報の収集や課題の整理等を行う。」(57頁)「先端技術について、産業界と連携し、情報収集に努め、利活用を促進する。法的権利・利益との調和を図るための制度的な対応については、関係省庁と連携する。」(59頁)、映画・映像については「JETROと連携し、戦略国・地域における法規制・文化・慣習及びマーケット等の調査を行い、戦略的な販路拡大に資するデータ整備・施策立案を行うほか、必要に応じて法律面や会計面の専門家の支援を行う。」(62頁)、デザインについては「産業界と連携しつつ、各種デザイン分野の特性に応じた契約書のひな形作成や、フリーランス法等の取引適正化に関するデザイナーへの教育機会を提供する。」(75頁)と具体的課題を提示しています。

 本報告をはじめ、エンタメビジネスについては、国家戦略の構築がなされつつあります。もちろん、実際のコンテンツ制作を行うのはエンタメ企業やクリエイターに他なりませんが、国家がエンタメビジネスにテコ入れを始めたことには間違いありません。そこで、エンタメ企業やクリエイターに対するリーガル支援についてもその国家戦略の動向を見ながらしっかりと進めていく必要があります。
2025年3月28日

執筆者:弁護士 室谷 光一郎