エンタメとコンプライアンス

 2018年2月15日付「人材と競争政策に関する検討会報告書」(公正取引委員会)を発端として、スポーツ選手、芸能人その他(以下、「芸能人等」といいます)の「フリーランス」と芸能プロダクション等との契約に関する問題点がクローズアップされてきました。その後、2019年12月3日付一般社団法人日本音楽事業者協会「専属芸術家統一契約書改訂のお知らせ」のように、芸能事務所業界団体がマネジメント契約書ひな型の見直し改訂を公表する等、芸能プロダクション側もそれに応じた動きがありました。また、2021年3月26日には、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省)が出され、芸能人等のフリーランスをめぐる法的問題のクローズアップが進みました。

 そのような中、専属契約において芸能人の移籍・独立を制限することが優越的地位の濫用、取引妨害、取引拒絶等に該当するのではないか、低い待遇を押し付けているのは優越的地位の濫用に該当するのではないか、書面ではなく口頭による契約によって一方的な報酬を押し付けているのではないか、芸能人等に属する各種権利(氏名肖像権、芸能活動に伴う知的財産権等)を芸能プロダクションに譲渡・帰属させているにもかかわらず当該権利に対する対価を支払っていないのではないか、実質的には労働契約なのに専属契約によって賃金を支払っていないのではないか等、様々な芸能人等をめぐる問題がクローズアップされてきました。そして、今年に入り、ジャニー喜多川氏の性加害問題からのジャニーズ事務所の解体という事態までもが出現するに至りました。

 従前、人々は、芸能人等が有する一方ならぬタレント性にばかり着目し、芸能人等の「強者」の面だけに関心を寄せ、芸能プロダクション等のメディア産業との関係では芸能人等も「弱者」になり得るという認識が欠如していたのかもしれません。しかしながら、上記の流れは、芸能人等も組織と対峙する場合には、一個人であり、その一個人としてのあり方を権利・人権という観点から再構築していく必要があることを人々に示しています。エンタメとコンプラアンスや法の支配は縁遠い側面があったように思いますが、これからは、両者の接合が求められる時代になっております。そして、ジャニーズ事務所の解体と新たな出発はそんな時代の変化に合わせていってもらえたらとエンタメに関わる者として願わざるを得ません。
2023年11月13日

執筆者:弁護士 室谷 光一郎