イベント中止「返金不可」規約について

 令和3年12月17日から同月19日にかけて大阪市住之江区で予定されていたイベントが天候不良のために中止となりましたが、「天候不良などで中止となっても返金はしない」とのチケット規約に基づき、イベント運営会社は同イベントのチケットを購入した人にチケット代金の返金をしませんでした。そこで、国の認定を受けた特定適格消費者団体「消費者支援機構関西」が、当該規約が消費者契約法10条に違反し無効であるとして、チケット代金の返還義務を負うことの確認を求め、令和5年4月5日、大阪地裁に提訴しました。本訴訟は、平成28年10月1日に施行された消費者裁判手続特例法に基づき、特定適格消費者団体が多数の消費者に代わって共通義務確認訴訟を提起するという訴訟の影響(一つ一つの事件規模は小さいために訴訟を行うことを諦めることが多い案件を多数の消費者に代わって特定適格消費者団体が事業者に対峙する訴訟形態の有用性等)という観点からしても興味深いものですが、本コラムでは、消費者契約法10条とイベント中止返金不可規定の関係を少し考察してみたいと思います。

 イベントに係るチケット販売については、通常、イベント主催者はチケット購入時にチケット代金に係る規約を購入者に提示し、その承諾を得てチケットを販売しています。そして、その当該規約に、不可抗力条項、すなわち、一般的には外部からくる事実・事象であって、取引上要求できる注意や予防方法を講じても防止できないものが発生した場合には、当該イベントが中止になったとしてもチケット代金を返金しないという条項があることが多いです。そのような不可効力の場合として、地震等の災害、疫病、伝染病等が挙げられています。最近では、コロナ禍に関する事象(緊急事態宣言発出等)についての記載も挙げられるようにもなっています。しかしながら、このような不可抗力条項がかなり曖昧であった場合、かなり恣意的で、ほぼ「いかなる場合であっても返金しない」と読み取れるような内容であった場合、消費者にかなり不利な規定となることから、こういった規定については、消費者契約法10条(消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。)に基づき、同規定が無効となります。

 では、「天候不良などで中止となっても返金はしない」とのチケット規約は消費者契約法10条に基づき無効だといえるのでしょうか。通常、イベント主催者は、イベント開催準備にあたり、多額の経費支出等をしており、やむなくイベントの中止の判断をした場合には、同経費支出を回収できず、多額の負担を被ることを余儀なくされていることが多いです。そして、野外イベント等では、その成否については天候に左右されることも多いでしょう。そのため、「天候不良などで中止」という事象は消費者にも予期でき、消費者の利益を一方的に害するとまで言えるかどうか判断が難しいところです。他方で、天候は頻繁に変化するものであり、その変化に係る負担を一方的に消費者に負わせるのは消費者の利益を一方的に害すると評価できるかもしれません。イベントと天候は密接に関連しているものであり、今後のイベント開催においても、本訴訟の結論は大いに影響を与えると考えられます。
2023年6月23日

執筆者:弁護士 室谷 光一郎