「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の変更について 芸術・芸能分野を重点業務等に追加

 平成26年に成立した過労死等防止対策推進法に基づき、過労死等の防止のための対策を効果的に推進するための大綱が厚生労働省において作成されていますが、本年令和6年8月2日、その変更が閣議決定されました。その変更点に関する主な取組等として、「 芸術・芸能分野を重点業種等(自動車運転従事者、教職員、IT産業、外食産業、医療、建設業、メディア業界)に追加、事業主に義務付けられているハラスメント防止措置の状況についても過労死等事案から収集・分析を実施」が挙げられました。元々、メディア業界は過重労働が多いとしてその対象とされていましたが、今回の変更によって、「芸術・芸能分野」もメディア業界に加えて対象に加えられました。そして、「過労死等が多く発生している又は長時間労働等の実態があるとの指摘がある職種・業種(重点業種等)に、芸術・芸能分野を追加し、過労死等事案の分析や労働・社会分野の調査・分析を実施する」となりましたので、厚生労働省の調査等が行われることになります。

 こうした状況になった背景事情には、昨秋に宝塚歌劇団で発生した団員の自死事案において過重労働やハラスメントが指摘されたことがあるとされています。また、本年令和6年9月5日、同事案について、兵庫県西宮労働基準監督署は同歌劇団を運営する阪急電鉄株式会社に対し、「労務管理の不備」を指摘する是正勧告をしています。なお、団員は、歌劇団と業務委託契約を締結し、フリーランスという位置付けでしたが、その実態調査を通じて、兵庫県西宮労働基準監督署は「実質的に労働者」という認定を行ったといえます。

 この一連の流れからは、芸能分野においては、業務委託契約スキームがまだまだ多いですが、「実質的に労働者」という認定がされた場合、過重労働についてプロダクション等の責任が追及されるという流れが加速していくことが予想されます。また、本年令和6年11月1日に、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(通称、フリーランス保護法)が施行されますので、たとえ、「実質的に労働者」という認定がなされなかったとしても、フリーランスの就業環境の整備を求める同法に基づく勧告等がされることも考慮する必要があります。

 メディア業界で働く人々に加え、キャスト等の芸能人等についても、その就業環境を整えていくことがより一層求められるようになってきております。
2024年9月26日

執筆者:弁護士 室谷 光一郎