AIを利用した創作者、発明者は「人間」か?

 人工知能(AI)が発明した新技術が特許として認められるかどうかが争われた訴訟において、令和6年5月16日、東京地裁は、特許権における「発明者」は人間に限られるとして請求を棄却しました。すなわち、「自然人を想定して制度設計された現行特許法の枠組みの中で、AI発明に係る発明者等を定めるのは困難」であるとして、発明は人間の創的活動により生み出されるものなので、AIは発明者たり得ないと判示しました。欧米諸国においても、発明者にAIを含めることに慎重な姿勢が多く、グローバルな観点から鑑みても、東京地裁の判断は妥当と言えるでしょう。他方、「AI発明に係る制度設計は、AIがもたらす社会経済構造等の変化を踏まえ、国民的議論による民主主義的なプロセスに委ねることとし、その他のAI関連制度との調和にも照らし、体系的かつ合理的な仕組みの在り方を立法論として幅広く検討して決めることが、相応しい解決の在り方とみるのが相当」とし、国民的議論が必要であることも示しました。今後の議論が期待されるところです。

 そして、政府の知的財産戦略本部がまとめる「知的財産推進計画2024」においても、現在のAIの技術水準では、AI自身が、人間の関与を離れ、自律的に創作活動を行っている事実は確認できないので自然人の発明者を認定すべきだという見解が組み込まれそうです。ただ、「技術の進展や国際動向、ニーズを踏まえながら検討を進める」とされており、状況によっては変化がありそうです。

 他方、著作権分野では、AIを利用した創作物に関する「著作者」について、令和6年3月15日付「AIと著作権に関する考え方について」(文化審議会著作権分科会法制度小委員会)において、「『著作者』は『著作物を創作する者をいう。』(著作権法第2条第1項第2号)と定義されている。AIは法的な人格を有しないことから、この「創作する者」には該当し得ない。そのため、AI生成物が著作物に該当すると判断された場合も、AI自身がその著作者となるものではなく、当該AIを利用して「著作物を創作した」人が当該 AI生成物(著作物)の著作者となる。」とされており、「著作者」についても自然人のみを前提にしているように思います。

 AIに関する技術進展は想像以上に早く、後付的に法的解釈を行っている状況にあり、今後の動向によっては人間ではなくAIを「発明者」や「著作者」と解釈していく局面も訪れるかもしれません。しかしながら、グローバルな議論においてAI規制の必要性が論じられる中で、技術進展を進めつつも人間が主体であるという基本的な観点については、現段階における結論がそろそろ出そうな気もしております。

2024年5月27日

執筆者:弁護士 室谷 光一郎