著名人の名誉毀損訴訟について

 著名人の私生活における性的行動を大手出版社が発行する雑誌が取り上げたことで、名誉毀損訴訟が社会の耳目を集める事態となっております。
 「名誉毀損」とは、公然と事実を指摘して人の名誉を傷つける(=社会的評価を低下させる)ことを言います。ですので、著名人等のプライベートにおける性的行動や発言、政治家の権力を盾にした言動等を報道した場合、それが当該著名人等の社会的評価を低下させる内容であれば、形式的には「名誉毀損」に該当するものです。

 ただ、名誉が毀損されるからといって、著名人の言動等を全く報道しないとなると、社会的な影響力を持つ著名人等に対するチェック機能(特に権力監視)が疎かになりかねません。そもそも、報道機関などは憲法21条が保障する表現の自由の一環として事実を報道する権利(報道の自由)を有しているところ、社会の公益に資する報道が、人の社会的評価を下げるような内容であることを理由に全て名誉毀損として違法性を問われるとなると、報道の自由を損ね、民主主義の根幹が揺るぎかねません。そこで、刑法や民法においては、報道される側の自己の名誉を守る権利と、報道の自由や報道を受け取る側の知る権利といった相対立する権利間の調整が行われています。仮に報道等が「名誉毀損」に該当したとしても、①「事実の公共性」、②「目的の公益性」、③「真実性」又は「真実相当性」という三つの要件を満たす場合には違法性が否定されるというロジックです。

 そのうち、①「事実の公共性」とは、摘示した事実が公共の利害に関する事実(=多くの人にとって利害関係にある事実)であることを意味します。個人のプライバシーに関する私生活上の事実は、原則として公共性がありません。しかし、個人のプライバシーであっても、その人が携わる社会的活動の性質や社会に及ぼす影響力の大きさによっては、公共性が認められる場合があります。著名人等の言動等は社会的影響力を有するという判断からか、通常、公共性を肯定する裁判例が多いです。次に、②「目的の公益性」とは、事実摘示の目的が専ら公益を図るものであることを意味します。著名人等の言動を摘示することは、その言動が社会的規範に逸脱したものになっていないか、資質・能力に問題がないか等ということを社会に知らしめるという公益を図るものであると認める裁判例が多く見られます。そして、③「真実性」とは摘示された事実が重要な部分において真実であることを意味します。また、「真実相当性」は摘示された事実の重要な部分を真実と信ずることについて相当の理由があることを意味します。通常、プライバシーに関わる事柄が真実であることを立証することは難しいため、「真実性」ではなく「真実相当性」を報道機関側が立証することが多いです。そこでは、当該内容について「真実だと誤信」し、その誤信が「確実な資料・根拠」に基づくものだと立証をしていくことになります。著名人の名誉毀損訴訟における本丸はこの「真実相当性」の要件具備にあると言っても過言ではないと思います。そのため、報道機関としては、報道の準備段階から裏取り、推敲等を綿密に行っていく必要があります。

 社会的影響力を勘案すれば、著名人等は、私的な言動であってもその評価が広く問われ得るため、自らの言動を律することが求められます。また、報道機関はその報道の影響力からすれば、報道が間違いのない裏取りに基づいたものであるようにする不断の取材努力が求められます。著名人等の名誉毀損訴訟は、報道機関の取材力が試される場でもあります。
2024年1月23日