楽曲のカバー・アレンジを行う際の著作権処理と実務上の注意点について【前編】
はじめに
近年、YouTubeやTikTokといった動画共有プラットフォームの隆盛や、SNSでの手軽な情報発信が可能になったことで、個人が既存の楽曲を「カバー」したり、独自のアレンジを加えて公開したりするケースが急増しています。
これらの行為は、音楽の楽しみ方を広げる一方で、元の楽曲が持つ著作権や著作者の権利と深く関わっており、適切な権利処理を怠ると、意図せずして著作権侵害に該当してしまう可能性があります。
本稿では、楽曲のカバーやアレンジを検討している方々を対象に、その法的な区別から、クリアすべき権利の種類、具体的な手続き、そして実務上の注意点までを、法的根拠を交えながら網羅的に解説します。
第1章 「カバー」と「アレンジ」の法的な違い
まず理解すべきは、「カバー」と「アレンジ」の法的な違いです。これらは音楽的なニュアンスだけでなく、著作権法上の扱いと、必要となる権利処理が大きく異なります。
●カバー
一般的に元の楽曲(原曲)を忠実に再現して演奏・歌唱・録音する行為を指します。編曲が加えられる場合でも、それが原曲の「同一性」を害さない、ごくわずかな変更の範囲に留まるものは「カバー」と見なされます。例えば、曲のテンポやリズムを少し変更する程度は、社会通念上許容される軽微な変更と考えられることが多いです。
●アレンジ
原曲のメロディ、構成、歌詞といった本質的な要素に改変を加え、新たな創作性を付与する行為を指します。これは日本の著作権法上、「翻案」という行為に該当し、アレンジは「編曲」の一環として翻案権の対象となります。
この区別は、必要となる権利処理の相手方や手続きが根本的に異なるため、極めて重要です。
第2章 権利処理の対象となる主な権利
楽曲をカバー、またはアレンジして利用する際には、主に「著作権(財産権)」と「著作者人格権」という二つの大きな権利の壁を越えなければなりません。さらに、元の音源(原盤)を使用する場合は「著作隣接権」も関わってきます。
1 著作権(財産権)
著作権は、著作者の財産的な利益を保護する権利であり、譲渡や相続が可能なものです。そのため、作詞家・作曲家といった「著作者」と、権利を管理・運用する音楽出版社などの「著作権者」が異なるケースが一般的です。アレンジにおいて特に重要となるのが、この著作権に含まれる翻案権(著作権法第27条)です。
著作権法第27条は、「著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する」と定めています。つまり、楽曲をアレンジ(編曲)する権利は、著作権者が独占的に持っているため、無断でアレンジを行うことは翻案権の侵害となるのです。
また、アレンジによって創作された二次的著作物を利用する際には、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(著作権法第28条)も関係します。この条文は、原曲の著作権者が、アレンジ版がどのように利用されるかについてもコントロールができることを定めています。
2 著作者人格権
著作者人格権は、著作者の人格的な利益、すなわち作品に対する思い入れや名誉を保護する権利です。この権利は著作者本人に一身専属し、他人に譲渡することはできません。アレンジにおいて特に問題となるのは、以下の二つの権利です。
●同一性保持権(著作権法第20条)
著作者が、自身の著作物およびその題号について、その意に反して変更、切除、その他の改変を受けない権利です。
たとえ営利目的でなくても、著作者の意に反するアレンジや歌詞の変更、セリフの追加などは、この同一性保持権を侵害する可能性があります。替え歌やパロディは、著作者の名誉や声望を害する方法での利用とみなされ、この権利の侵害となる可能性が特に高いとされています。
●氏名表示権(著作権法第19条)
著作者が、自分の著作物に氏名を表示するかどうか、また表示する場合に実名かペンネームかなどを決定する権利です。アレンジ版を公開する際も、原著作者の氏名をその意向に沿った形で表示する必要があります。
3 著作隣接権(原盤権)
カバーやアレンジの際に、自ら演奏・録音するのではなく、オリジナルのCDなどに収録されている音源(原盤)を直接利用する場合(リミックスやサンプリングなど)は、これまで述べてきた著作権とは別に「著作隣接権」の処理が必要になります。
著作隣接権には、レコード製作者(原盤制作者)の権利と、実演家(歌手、演奏者)の権利があります。レコード製作者は、自身が製作したレコードを複製する権利(複製権)などを持ち、実演家も自身のパフォーマンスを録音・録画する権利(録音権・録画権)や、実演家人格権(氏名表示権、同一性保持権)を持っています。
したがって、原盤をサンプリングなどで利用するには、著作権者や著作者への許諾とは別に、その原盤を制作したレコード会社や、音源に参加している実演家からの許諾(原盤使用許諾、Master Use License)が不可欠となります。
近年、YouTubeやTikTokといった動画共有プラットフォームの隆盛や、SNSでの手軽な情報発信が可能になったことで、個人が既存の楽曲を「カバー」したり、独自のアレンジを加えて公開したりするケースが急増しています。
これらの行為は、音楽の楽しみ方を広げる一方で、元の楽曲が持つ著作権や著作者の権利と深く関わっており、適切な権利処理を怠ると、意図せずして著作権侵害に該当してしまう可能性があります。
本稿では、楽曲のカバーやアレンジを検討している方々を対象に、その法的な区別から、クリアすべき権利の種類、具体的な手続き、そして実務上の注意点までを、法的根拠を交えながら網羅的に解説します。
第1章 「カバー」と「アレンジ」の法的な違い
まず理解すべきは、「カバー」と「アレンジ」の法的な違いです。これらは音楽的なニュアンスだけでなく、著作権法上の扱いと、必要となる権利処理が大きく異なります。
●カバー
一般的に元の楽曲(原曲)を忠実に再現して演奏・歌唱・録音する行為を指します。編曲が加えられる場合でも、それが原曲の「同一性」を害さない、ごくわずかな変更の範囲に留まるものは「カバー」と見なされます。例えば、曲のテンポやリズムを少し変更する程度は、社会通念上許容される軽微な変更と考えられることが多いです。
●アレンジ
原曲のメロディ、構成、歌詞といった本質的な要素に改変を加え、新たな創作性を付与する行為を指します。これは日本の著作権法上、「翻案」という行為に該当し、アレンジは「編曲」の一環として翻案権の対象となります。
この区別は、必要となる権利処理の相手方や手続きが根本的に異なるため、極めて重要です。
第2章 権利処理の対象となる主な権利
楽曲をカバー、またはアレンジして利用する際には、主に「著作権(財産権)」と「著作者人格権」という二つの大きな権利の壁を越えなければなりません。さらに、元の音源(原盤)を使用する場合は「著作隣接権」も関わってきます。
1 著作権(財産権)
著作権は、著作者の財産的な利益を保護する権利であり、譲渡や相続が可能なものです。そのため、作詞家・作曲家といった「著作者」と、権利を管理・運用する音楽出版社などの「著作権者」が異なるケースが一般的です。アレンジにおいて特に重要となるのが、この著作権に含まれる翻案権(著作権法第27条)です。
著作権法第27条は、「著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する」と定めています。つまり、楽曲をアレンジ(編曲)する権利は、著作権者が独占的に持っているため、無断でアレンジを行うことは翻案権の侵害となるのです。
また、アレンジによって創作された二次的著作物を利用する際には、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(著作権法第28条)も関係します。この条文は、原曲の著作権者が、アレンジ版がどのように利用されるかについてもコントロールができることを定めています。
2 著作者人格権
著作者人格権は、著作者の人格的な利益、すなわち作品に対する思い入れや名誉を保護する権利です。この権利は著作者本人に一身専属し、他人に譲渡することはできません。アレンジにおいて特に問題となるのは、以下の二つの権利です。
●同一性保持権(著作権法第20条)
著作者が、自身の著作物およびその題号について、その意に反して変更、切除、その他の改変を受けない権利です。
たとえ営利目的でなくても、著作者の意に反するアレンジや歌詞の変更、セリフの追加などは、この同一性保持権を侵害する可能性があります。替え歌やパロディは、著作者の名誉や声望を害する方法での利用とみなされ、この権利の侵害となる可能性が特に高いとされています。
●氏名表示権(著作権法第19条)
著作者が、自分の著作物に氏名を表示するかどうか、また表示する場合に実名かペンネームかなどを決定する権利です。アレンジ版を公開する際も、原著作者の氏名をその意向に沿った形で表示する必要があります。
3 著作隣接権(原盤権)
カバーやアレンジの際に、自ら演奏・録音するのではなく、オリジナルのCDなどに収録されている音源(原盤)を直接利用する場合(リミックスやサンプリングなど)は、これまで述べてきた著作権とは別に「著作隣接権」の処理が必要になります。
著作隣接権には、レコード製作者(原盤制作者)の権利と、実演家(歌手、演奏者)の権利があります。レコード製作者は、自身が製作したレコードを複製する権利(複製権)などを持ち、実演家も自身のパフォーマンスを録音・録画する権利(録音権・録画権)や、実演家人格権(氏名表示権、同一性保持権)を持っています。
したがって、原盤をサンプリングなどで利用するには、著作権者や著作者への許諾とは別に、その原盤を制作したレコード会社や、音源に参加している実演家からの許諾(原盤使用許諾、Master Use License)が不可欠となります。